心理雑感

『悪の誘惑』ジェイムズ・ホッグ

The Private Memories and Confessions of a Justified Sinner

 これは,1824年のJames Hoggによるゴシック・ロマンスという分類の本ですね。
 スコットランドの羊飼いとして生きた著者による,人間の悪魔性を描いています。

 深層心理学の分析心理学を創始したC.G.ユングは,この本を「イギリスのファウストだ」と言ったとのこと。ファウストは,ドイツの劇作家であるゲーテが書いた有名な本ですよね。

 本は,まるで過去のある出来事の歴史を辿るように書かれ,その後は犯罪を犯すことになった主人公,ただし主人公は不幸な生い立ちで少し偏った思想の牧師に育てられ,自分の神による正当性を保証されたものとして生きようとする,迷うことも神への裏切りと考えてそのような考えを抑圧して過ごしていく人です。
 最後には妄想のように自分を支配する他者の存在におびえ,その他者も自ら死を選ぶしかなくなる主人公を前に,死を人に委ねるよりは自らの名誉ある死を選ぶ,そして全てが正当化されていく,その過程が丁寧に描かれています。しっかりとした思考能力を持った人が,誰もが弱さを持つ人が,何を”支え”にするのかによって人生が変わっていくことを如実に描いています。

深層心理学

 ある意味,このような本はかなり好き嫌いが偏るでしょう。
 読むことは,人によっては心を揺さぶられるでしょう。
 ドストエフスキーを想起する人もいるでしょうし,日本では羅生門かもしれない。
 自分の心の深いところでの動きを感じつつも,自分の自由になることのない心の奥深い世界を感じるのも興味深い取り組みです。

 深層心理学の先駆けとなった精神分析の創始者のS.フロイトが述べた,心の構造の中の「超自我」という厳しく迫ってくる部分との対話は,自分の心を見つめていくと必ず出会います。その「超自我」の言うことは,正しく聞こえ,それに従わないことは自責感を生じやすく,場合によっては自己否定感にまで至ることが確認されます。

 この「超自我」は,ユングが「シャドウ」と呼んだところと重なるようです。少し,位置付け方とその動きの捉え方が違いますが。
 私たちの心も,随分とわかってきている部分が多いのです。しかし,思いの外一般の人には知られていませんね。
 一般的に理解が多少ともあるのは,フロイトの構造論まで,つまり意識・無意識・超自我の違いというところまででしょうか…。

正しいという欲求

 人の心がどのように,正しくありたいという欲求に負けて支配されてしまうのか,その弱さを示すことを通して,人の心を受け止めて認めていく,ということを進める人もいるかもしれません。

 最近だと,ハラスメントという言葉を本当によく耳にします。
 これも,人の悪魔性の一つでしょう。オープンで正しい,マスコミなどでオープンな言葉のようにも見えますが,弱者を守る正義,という中世の宗教的な排他的な言葉でもあるように思います。

 ハラスメントという言葉を使う側も,ハラスメントという行動をしてしまう側も,どちらもが自分を深く内省していくことで,人の世の葛藤を掘り下げて心の自由を見出し,本当の対話を紡ぐ中で関係を健全なものとしていくこともできるるのですが,現実には自らの正当性を保証すること,それが即ち自分の攻撃的衝動に身を任せることと繋がっていくのでしょう。
 ただし,被害にあっている状況下では,被害回復としての“怒り”の活用は大切なことであり,そのことが復讐に繋がってしまいそうで,そこを何とか押しとどめてそうはならないようにする,ということを維持できるかどうかは,なかなか厳しいこともあるのは事実です。

 かつて,人の正しさを求める欲求が,ナルシシズムに繋がっているという研究報告をしたのですけどね。

 この本は,随分と心を揺さぶるものでしたので,すっごく簡単な紹介でした。 

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