感情

自分の中(腸)にいる大切な他者 『腸と脳』 エムラン・メイヤー著より 

 今回は、腸と脳 エムラン・メイヤー著 高橋洋訳 をまとめてみたいと思います。
 先日の『情動はこうしてつくられる』に引き続き、脳や人の心に関係するテーマです。

  著者のエムラン・メイヤーは、ドイツの田舎生まれで、家のパン屋を継がずに医学の道に入り、更にはアメリカまで行って胃腸病学者としてUCLAの教授になった方です。

 また、私のメモとして、簡単にまとめて書かせていただきます。
 今までも、いろんな本を読んでこれはと思うことがあるたびに、このようにメモとして発信しておくことも役立つのではと思っていました。ただ、なかなか時間を取り切れずにそのままになってしまうことが多くありました。これらは、具体的に伝えようとする相手がいるものだから、少し頑張ってまとめています。

 あくまでも私の関心があるところに偏っているので、ご了承いただき、関心が高まった方は是非、当該書を手に取ってみてください。1つ1つの酵素や部位など、専門用語や名前を覚えようとしない限りは、難しくない本です。

腸の中の微生物たち

 腸の中に沢山の微生物がいることは、既に多くの人に知られていることかと思います。
 約1,000種、約100兆個の細菌が存在するとされており、微生物同士がコミュニティを形成しているのです。そしてそのコミュニティは、腸管神経系との対話に留まらず、脳とのやり取りも行っているのです。

 この本では、その腸内微生物が腸管神経系や消化器系のみならず、脳や免疫系とも密接にコミュニケーションをしているということを示しています。その方法は、ある意味で意識できるレベルのお腹の調子であったり、体調であったり、意識できないレベルの血流や炎症レベルなど、様々なのです。

 そして腸内微生物は、人にとっては他者なのですが、実は私たちはその他者の意見も聞きながら自分の考えや感情を作り出している、というのです。

過去と現在の体調の繋がり

 著者のメイヤー氏は、内科医ですが診察の際には、「子どもの頃は幸福でしたか?」と聞くといいます。医師は一般的に、現在観察できる症状、血圧やコレステロールのレベルなど測定できることを把握しようとするが、実際に過去の体験が現在に影響を与えているということは想像つきやすいですね。ただ、なぜ内科医が精神科医のような質問をするのかというと、子どもの頃の環境により、どのような腸内環境が作られていったのか、言い換えると腸内微生物が多様に存在できるような環境にいられたのか、を確認することができると言います。腸内環境は、3才には完成するとのことでした。他の動物は、生まれたときには大体完成しているのでしょうが、人間は未完成の状態で生まれ出てくることで、育った環境の中で脳や腸内環境、神経系の発達と刈込を進めていくのですね。

 大人になってからも、グルテンフリーとかダイエットとか行いますよね。それら色々な取り組みも身体に影響は与えるのですが、腸内微生物の働き方は変わるものの、その環境自体が大きく変わることはないのではないか、という研究結果も示されています。
 実際に、大切に育てられた子供と、ストレスを強く受けて育った子供の嗜好は随分と変わるということがある研究もありますね(119頁)。

 このような視点は、エピジェネティックという概念とも強く繋がっています。この概念は、人の状態は遺伝で決められているのではなく、生まれ持った遺伝情報が環境要因により特定のメカニズムを発現させるのかどうかを決められていく、ということなのです。つまり、幼少時の体験は腸や脳ばかりか、マイクロバイオームという腸内微生物の成育環境とその働きに大きく影響しているのです。

食べ物を気を付ける

 マイクロバイオームは、すぐに変えられるものではないようです。何世代にもわたって、変化させていくところもあるようです。
 実際に、工業化していない昔ながらの生活をしている民族と、満ち足りた都市生活をしている人たちでは、後者の方が腸内微生物の多様性が半減しているとのことです。驚きです。

 本書では、分かったところで変えられないなら意味がない、ということで、その改善策もいくつか示しています。
 食餌療法、例えばヨーグルトや発酵食品を意識的に取るとか、動物性油を減らすとかもあげられています。プロバイオティックスやプレバイオティックスなどの腸内で消化されにくく有効な栄養成分などを用いたアプローチの可能性も有効であるかもしれないと指摘しています。

 メイヤー氏は、不安障害や過敏性腸症候群(IBS)などのストレスに起因する慢性的な症状は、気のせいではなくて、腸脳間の配線が影響していること、そしてその改善には、認知行動療法やマインドフルネスなど、複数のその後の選択肢の拡大などが役に立つことを示しています。

 近年のマイクロバイオータの知識拡大から、腸―マイクロバイオータ―脳という3者の相互作用に対する理解が深まり、それが情動の形成に大きく影響していることも明らかになってきつつあると言います。情動はその都度変化し続けて作られているものだ、ということを先に紹介した本でも共有しましたが、そのこととも大きく重なります。

 精神分析を創始したS.フロイトについても、心の発達において口唇期・肛門期などと言った概念に思い至ったことは褒めたたえながらも、消化管全体、およびそこにいる微生物が送ってくる感情情報に基づいて脳が情動を作るということは見落としていたと指摘しています(183頁)。ただ、その時代にはそんな研究は全く未開の領域でしたから、仕方がないですよね。

健康のために

 メイヤー氏は、心身の健康のために、いくつかの指針を示してもいます。
 ネットなどでも、色々と言われているところもあるでしょう。

 ここでは、それらを個別には紹介しません。しかし、印象に残った文章があります。それは、「自分の腸の中にいる微生物たちは、多くは私たちのためによい働きをしてくれていること。それらが元気に育ってくれるような食生活をすることは、自分の子どもの栄養を気を付けて食事を与えるのと同じだよ」と書いています。つまり、腸内微生物も自分にとっての大切な他者として、適切に栄養を与え、試練を与え(食べ過ぎない)、嫌がらせをしない(動物性脂肪を減らすなど)、ということですね。納得でした。
 実際に、先程もこれを食べようか、と思ったものを控えました。

 しっかりと、納得がいく情報を踏まえて(それ自体が刻々と改善されていくので、アップデートされる必要がありますが…)取り組みを決めていくことが良いでしょうね。

玉井心理研究室が提供する心理支援

 玉井心理研究室では,認知行動療法イメージワークを用いて,トラウマから精神疾患,対人関係など広く心理療法を提供しております
 また,個人のみならず,組織における人事・メンタルヘルスコンサルタントとしてもお手伝いをしております。

 コロナ後に拡がったオンラインによる相談ですが,今後も継続する予定です。

コメントを残す

*