玉井心理研究室の玉井仁です。
日々の生活の中で、私たちは様々な困難や悩みを抱え、絶望の淵に立たされることがあります。そのような方々が,当研究室にも相談に来られます。
今回,ある本を紹介されました。そんな苦しみが続く中で、私たちを支えてくれるものとは何か,ということについて,著者の体験から書かれた本です。
今回ご紹介したいのは、頭木弘樹著『絶望読書――苦悩の時期、私を救った本』です。この本は、著者が自身の苦悩の時期に読書を通して得た教訓や希望を綴ったエッセイです。
著者は大学時に,もう回復できないという潰瘍性大腸炎という病にかかり,いろいろと夢見ていた将来がガタガタと崩れ落ちるという経験をします。落ちたときは,どうしようもないままに翻弄されるのだが,その後に這い上がれないその絶望の期間が続くのがどうしようもなくつらかった,という著者は,様々な本や映画などに支えられたといいます。
決して,ポジティブにはなれない,ポジティブではなく,生老病死のように苦しみの中を生きている人間を描いたものに,一人じゃないんだと少しだけ楽になることで,その時期をしのげたといいます。
本書では,カフカ,ドストエフスキー,金子みすゞ,そして桂米朝などの落語家や山田太一のドラマなどが紹介されています。目次の後半,著者はもっといろいろと紹介したかったようですが,その一部は以下のようになっています。
太宰治といっしょに「待つ」
──人生に何かが起きるのを待っているという絶望に
カフカといっしょに「倒れたままでいる」
──すぐには立ち上がれない「絶望の期間」に
ドストエフスキーといっしょに「地下室にこもる」
──苦悩が頭の中をぐるぐる回って、どうにもならない絶望に
金子みすずといっしょに「さびしいとき」を過ごす
──自分は悲しいのに他人は笑っている孤独な絶望に
桂米朝といっしょに「地獄」をめぐる
──自分のダメさに絶望したときに
ばしゃ馬さんとビッグマウスといっしょに「夢をあきらめる」
──夢をあきらめなければならないという絶望に
マッカラーズといっしょに「愛すれど心さびしく」
──自分の話を人に聞いてもらえない絶望に
向田邦子といっしょに「家族熱」
──家族のいる絶望、家族のいない絶望に
山田太一といっしょに「生きるかなしみ」と向き合う
──正体のわからない絶望にとらわれたときに
読書が示す新しい物語
読書は、私たちに知識や教養を与えてくれるだけでなく、私たちが生きる物語として,羅針盤になってくれるのですね。改めてポジティブではなく,ネガティブのままでよい,ということをまさに体験を通して書かれた著者の思いが,とてもよく伝わってきました。
最近は,ネガティブはポジティブに切り替えよう,などと言う雰囲気が強い気がしますからね。苦しい時、孤独な時、読書などを通して知らなかった物語に触れることで、私たちは自分自身を理解し、新たな視点を得ることができます。
こんな方におすすめ
この本は,苦しい状況が続いている人たちだけではなく,今は幸せな人にも,おススメですね。
元々,著者はこの本を作るのに,別の本の読者たちから,「苦しいときに,どのような本が救いになったか」「どうすればよいのか」ということを問われ,自分の体験を書いたようです。
私も知らない本やドラマ,そして視点ももらいました。
知るだけでラクになる 心理学教室
さて,話は少し変わり,今週のワークショップのお知らせです。
「知るだけでラクになる,心理学教室」寂しさ編です。
6月19日水曜日 13時半
「寂しさ」という感情をテーマに,皆さんと一緒に過ごせる時間を楽しみにしています。
どうも,ネガティブな感情ですから,楽しみというのもなんですが,帰っていかれる方は少し笑顔が増えている気もしています。
詳しくは,モラロジー道徳教育財団の問い合わせ先にご確認下さい。
(先に行われた講演の資料ですが,参考になると思います https://www.moralogy.jp/r0603sinri/)
玉井心理研究室が提供する心理支援
玉井心理研究室では,認知行動療法やイメージワークを用いて,トラウマから精神疾患,対人関係など広く心理療法を提供しております。
また,個人のみならず,組織における人事・メンタルヘルスコンサルタントとしてもお手伝いをしております。