心理雑感

書評から ネガティブ・ケイパビリティ -答えのでない事態に耐える力-

耐える力

帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)氏による,とても良い本です。
ネガティブ・ケイパビリティについて,詩人のキーツが使い,その後,精神分析家のビオンがそれを掘り起こしたことで,一般の人たちにとって大切な概念であることが示されました。
私たちは,物事をわかろうとしてします。それもかなり強力に。脳は,自分が分かっていることから目の前の理解ができないことを読み解こうと,何とか解釈してしまいます。
ネガティブ・ケイパビリティとは,自動的に動いてしまう理解してしまいたい欲求を留め,分からないことを分からないままに耐えられる力,「事実や理由を性急に求めず、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力」をいうのです。

思い込みに気づき,そこから出る

分かった気持ちになってしまうと,私たちの思考は止まります。しばしば,思い込みや誤解もそうです。
苦しい時には,特に「思い込み」が強くなります。
不快な感情を伴うと,「私はダメなんだ」「私は愛されていないんだ」といった考えが出てきやすくなります。そして,その考えが止まらず,不快な感情を大きくし続ける(私はしばしば,ネガティブな感情に薪をくべ続ける,といった表現をします)ことを止められなくなると,かなり苦しい状態がエスカレートします。
嫌なことを体験した時に,その様な考えや感情が生じること自体は,自然な部分もあります。ただし,その考えや感情が「ゴール」になってしまうと,それが「正しい」という思い込みのままに過ぎることになります。
苦しいけれども,「ちょっとまてよ,いつもの考えだぞ,いつもこの気持ちになるとこの考えが出てくるぞ。この考えや気分に飲み込まれすぎないようにしよう」とネガティブ・ケイパビリティを発揮できるようになると,感情と理性がバランスよく保たれるようになります。

嫌なことはなくならないけれど

もちろん,感情がとても強い時に理性が適切に働くことは難しいでしょう。
それ故に,少し感情が下がるまでのタイムアウトなどが有効です。
嫌な気分になる,思い込みをなくすのではなく,それらに気が付き,少し離れられるようになり,そしてそれら不快なものがあっても耐えられ,自分にとって有益な一歩を踏み出す,ことに気を付けていきたいですね。
ネガティブ・ケイパビリティ」という本,なかなかお勧めです。

コロナ対策を行っている心理相談室 玉井心理研究室

 玉井心理研究室では,認知行動療法イメージワークを用いて,トラウマから精神疾患,対人関係など広く心理療法を提供しております
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