読後の感想(続き②)
アマルティア・セン氏は,インドの経済学者でアジア初のノーベル経済学賞受賞者です。
縁があって私のもとにやってきた表記の本,「グローバリゼーションと人間の安全保障」を読み,いくつかの思いが湧きました。
今回は,アイデンティティについて書いてみます。
アイデンティティ
皆さんは,「自分はどのような人間か」ということを選べる,ということを知っていますか。
心理学の言葉としては,自我同一性とも言われるアイデンティティ,これはフロイト派であり人の発達について研究を深めたE.Ericksonが提唱したものでもあります。
簡単に言うと,「私はこういう人」ということをちゃんと言葉にできるようになったもののことです。
このアイデンティティは,獲得していくものとされていました。私も,そのようなものであると漠然と考えてきていました。
しかし,セン氏はアイデンティティは選択だ,と明言します。
日本に生まれて育ったから,日本人としてのアイデンティティが育ってきているのだ,ということについては,自然に受け入れていました。
セン氏は,そのような思い込み自体に疑問を投げかけているのです。
選択するアイデンティティ
そこから振り返りながら考えてみると,私が,「心理士」としてのアイデンティティを確立したのは,今はそれも随分と前のことになりますが,この仕事について10年ほどたってからです。
不思議なことに,同時期に複数のお世話になっていた先生方に,全く別の場所で「あなたはもう心理士として生きていくことを天職と考えていいんじゃないか」「今はそのように考えることは傲慢でも何でもないのではないか」と言われたのです。
それからじっくり考えて,私は「心理士」だとしっかりと思うようになりました。
その様に考えると,心理士としての取り組みを続けてはいたのですから,行動の選択はしていたのです。その行動を一定期間,選択し続けることを通して,自分のアイデンティティを選択するに至った,というのが正確なところでしょうか。
この選択は,他の選択肢を排除しないのです。
何が言いたいかというと,日本に生まれ育った人でも,アメリカ人というアイデンティティを選択をする人もいるという可能性に余地を残しているのです。
ここで少し思考が脱線して,民主党政権時代の鳩山由紀夫元首相のことが浮かびました。
彼は(すみません,生意気に彼だなんて…)日本人のはずですが,まるで世界人みたいな人です。なんで,あんな奇妙なことをしているのだろう,というようなことをしているなぁ,と思って考えてみました。
鳩山元首相は日本人というアイデンティティから自由なのかもしれませんし,それは個人としてはすごいことなのかもしれません。ただ,「Trust me」なんて言って,何も出てこなかったということからは,あまり深く考えていない方なのかもしれません。知的には高い方のようですが,情に弱く,情に訴えるところが多いようですから,理性をもう少し鍛えるとよいのかもしれませんね。
また,日本人もまだ戦後の「日本自己否定」感から自由になっていない人が多い現状では,彼はちょっととびぬけてしまっていて,勢い余って自分自身のことも飛び越してしまっているのかもしれませんね。
新しいアイデンティティを獲得していく人たち
人の話しに耳を傾けていると,「私はダメな人間が」「私は能力がない」などと大きなカテゴリーで,自分を位置づけてしまい,それから自由になれない人たちが少なくないことに気が付きます。
これらは,自己イメージという呼び方の方がしっくりするのですが,一つのアイデンティティと言ってもよいのかもしれません。
思い込みは,自分の世界を狭くしてしまいます。
選択したのではなく,選択は強制されたように感じているのが実情です。
その強制されたように,自動的にそこに割り振られてしまったかのような選択肢から離れ,改めて自分で自分のアイデンティティを選び取れるようになる,それが心理療法とも言えるでしょう。
強制されたようなもの,自動的に割り振られたように感じているものに対しては,責任を取り切れないものです。責任を取っていると言っても,それは単に自分を追い詰める道具として使用し,自己嫌悪感を強くするのみで,能動的なものではないのです。
私は私,人に決められるものではない,人が何と言おうと私は私,そんな自分を探し,確認するための心理相談は,楽しそうですね。
実際に,楽しんで相談を終えていく人たちが多くいますからね(笑)
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