認知行動療法

アマルティア・セン『グローバリゼーションと人間の安全保障』

読後の感想

 アマルティア・セン氏は,インドの経済学者でアジア初のノーベル経済学賞受賞者です。
 縁があって私のもとにやってきた表記の本,「グローバリゼーションと人間の安全保障」を読み,いくつかの思いが湧きました。
 とても分かりやすく,共感する部分も多い本でした。

 以下のようなテーマごとに,このブログの何回かに分けて書いてみたいと思います。

1.アイデンティティ
  選択の自由と責任

2.人を憎むということ
  感情の教育

3.アジア的価値

認知行動療法

 以上は,また別の日に書くとして,この本を読みながら,連想していたことを一つ共有してみたいと思います。
 それは,認知行動療法についてです。

 認知行動療法は,私の専門の一つである,日本でも注目されている心理療法です。
 私は,かつて心理療法家としての訓練についたばかりの頃は,精神分析や家族療法,催眠療法などにより関心を高く持っており,認知行動療法(当時は論理療法も並行して注目されていました)にはあまり関心がありませんでした。

 それは,認知行動療法のもつ具体性,わかりやすさを表面的なものと感じ,底が浅いものではないか,精神分析などの無意識を扱うものの方が,はるかに深く人の心に分け入ることができるのではないか,という思いがあったからです。
 実際に,似たような感情を持っている人は,今でも多いのではないでしょうか。

 認知行動療法に縁ができ,その訓練と実践を長く続けてきて,ふと思いました。
 「この訓練は私自身のものの味方,現実的かつ有効な選択をする,という理性を磨いてくれたなぁ」

 フロイトが述べた無意識など,心の構造,ユングが指摘した言葉にならないもの,ヌミノース性,そのようなものについて改めて理解を深めていくに際して,わからないものを分からないままに「すごいんだよ」などとごまかさない姿勢,現実的な視点を時間をかけて身に着けてきたのだなぁと感じています。

感情に勝る理性

 感情よりも,理性が優位になる,そのようなことが可能であることは,多くの人たちが証明しています。
 感情のとらわれそうになった時に,それを意識しながらも(つまり抑圧してなかったことにするのではなく)それに囚われず,その感情に身を任せない選択をするという人間の凄さを感じさせてもらうことがあります。

 ただ,そのためには時間をかけた訓練が必要になります。
 実際に,心理療法も,そのような面があり,特に認知行動療法はその側面を強く意識していると言えるでしょう。

 理性とは,知性とは異なります。
 理性とは,理屈とも異なります。

 理性は,しっかりと納得したうえで,自分で選び取ることができるものです。

 私はよく,「感情に飲み込まれないように」と言います。
 自分を責めているとき,感情的になっています。理屈で自分を攻撃するかもしれません。
 知的に高い方が,自分の選択に後付けの理由をつけていくと,自分自身でなかなか反論できなくなり,行き詰まります。
 今は,多くの方がある程度考える訓練をしているから,知的な訓練もしてしまっているのです。

 だからこそ,理性です(笑)。

 理性って何かって,「物事の道理を考える能力。道理に従って判断したり行動したりする能力」とありました。
 物事の道理,自然の法則を見極め,思い込みや「これが正しい」という要請に盲目的に従わず,検討する力を持ち,判断していく力なのです。
 その判断には,結果が伴い,責任も伴います。その責任を取れることは,喜びに自尊心に繋がるでしょう。

 

 小学校の頃に,誰かの言葉で「意志で越えられないものはない」といったような言葉に感銘を受けたことを思い出しました(でも誰が言ったかは覚えていないんのですが…)。
 実際には,その意思を自分のものとする,そんな当然のようなことにどれほどの時間がかかったのか,と想いを馳せながらも,多くの悩みを抱えている人たちのことにも思いを寄せています。

 一歩一歩,進むことに意味はあるのです。

 玉井心理研究室のメインホームページでは、他にも様々な情報も出しておりますので,ご覧ください。
 気に入った情報や文章などがありましたら、コメントを送っていただいたり,当研究室のブログからとして広げていただけたらありがたいです。

 玉井心理研究室では、心理療法・心理カウンセリングの提供をしています。また、個人のみならず、組織や会社団体などにおける心理支援も行っております。
 現在は、Zoomやスカイプ、電話による相談も強化しております。