行動の制限
ここまで,Aさん(40代女性)のアンガー・マネジメントの取組みを,4回にわたって振り返ってきました。Aさんは,毒親と呼ぶにふさわしい激しく攻撃的に接してくる親との関係で苦しみ,結果として境界性パーソナリティ障害と診断を受けるまでになりました。
今回は,Aさんが,「怒りのボールを恐れない」で生活できるように取り組んだことについて,紹介しながら見ていきましょう。
以前は“怒り”という感情のもつエネルギーに振り回されていたAさんは,その“怒り”という感情のボールを少しずつ受け止められるようになってきたということを,前回までのところで述べてきたと思います。
実際に,Aさん自身,そのころには自分で「心の筋肉がついたな」と思えるようになってきていたとのことです。
例えば,以前は離婚してから,街で子供の姿を見るだけで嫌な気分になっていました。だから,休みの日は出来るだけ親子連れがいるような場所には出かけないようにしていたとのことです。子供の姿を見た時に,「私は子供を捨てたんだ」と考え,その不快さのきっかけを作り,「子供は勝手だ」と苛立ちを募らせていく自分を観察できていたし,それがちょっと偏っているな,と理解できてもいました。分かっていても,どうしてもいやな気持にならないように,行動範囲が狭まり,好きだった野球観戦にも行かなくなったと言います。
心の回復
ふと,「“怒り”や“不快”を感じないようにする為に,いつまで好きだったことを制限すれば良いんだろう」,と考えたといいます。でも,急にもう一度チャレンジすることは,怖かった。
少しずつ,信頼できる同性の友達Bさんと,一緒に出かけることを意識して,取り組み始めたようです。そのBさんは,Aさんが苦しくなって“怒りのボールを投げまくる”ことを理解しながら,そのことを相手にせず,無事に残っていた貴重な友人でした。
「子供は勝手だ」という考えに対して,Bさんは,「子供が勝手じゃなかったらやばいよ」と言ってくれました。子供好きなBさんに誘われて,子供相手のボランティアに参加するようになったとのことです。
今は,子供たちがいる場所に行くことを,恐れるどころか楽しみに感じられるようになったといいます。子供って,本当に自由で時にイラっとすることもあるといいます。でもそんな時には,「これだけやっても,まだ怒りって出て来るんだなぁ」って思えるようになりました,というAさん。“怒り”を感じながらもそれに振り回されずに,笑って「何やってんの」と言えるようになり,それもまた感情を受け止める心の筋肉を鍛えられるな,って考えているとのことです。
インナーチャイルドの癒し
認知行動療法をしっかりと進めた後で,インナーチャイルドワークにも取り組んで,過去の傷ついた子ども時代の自分を癒すという取り組みも進めたと言います。
その取り組みによって,更に気持ちは落ち着いて穏やかになっていき,違う自分と出会えたと言います。
Aさんの取組みを振り返りながら,“怒り”を考えてきました。Aさんの“怒り”は,分かりやすい側面も多かったですが,“怒り”は時に分かり難い別の感情や,考えの陰に隠れてその場に影響を及ぼしていることもあります。
“怒り”を恐れず,率直に向き合えるようになることで,通り過ぎるほかの感情と同様に,沢山の豊かなメッセージを受け止められるようになれる,そんなことを感じて頂ければ,幸いです。
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