大学での授業にて
今日は,私が心理療法の基礎実習を担当している大学の授業から,少しお話しします。
学生さんたちには,自分の成育歴を簡単に振り返ってもらっています。(参考図書『認知行動療法で自己肯定感を育てる 自分をもっと好きになるノート』玉井仁著)
乳児期は,アメリカの発達心理学者のE.H.エリクソンの発達段階説によると,信頼を獲得する時期です。つまり,世界が心地よく自分に接してくれるかどうか,言い換えると,お腹が減ったらちゃんと満たしてもらえる,うんちをしたらそれを綺麗にしてくれる,そのような心地よい世界が広がっているコトの体験が,自分自身に対する肯定感にも繋がっていくのだと言われています。
学生さんたちには,自分がどのようにその時代を過ごしたのか振り返ってもらいつつ,それぞれの時代と自分が抱えている課題,くせがどのように関係しているのかを探ってもらいます。
「ありのまま」って何?
時々耳にすることがある「あなたはそのままでいいんですよ」「ありのままのあなたが素敵ですよ」といった言葉がありますよね。
そこから,「ありのまま」とはどういうことか。自分,または人に対して「ありのまま」をよいと感じるということはどういうことなのか,考えてもらいました。
赤ちゃんは,ありのままでよいとされている存在ですからね。
・寝ているとき
・好きなことに熱中しているとき
・一人でゆっくりしているとき
・無意識で居られているとき
・安全なとき
いろんな意見が出てきます。
それらを概観すると,何か意識的にしないでいられているとき,ということを思い浮かべる人が多いようでした。
「ありのまま」ということの定義を定めずに,話し合っているのですから,いろんな意見が出てきます。
「ありのまま」とはどういう状態か
「ありのまま」について考えていくと,意識的に何か頑張ろうとしていないとき,無理をしていないとき,といったことが導き出されるようです。
赤ちゃんでしたら,そのままで何もしなくても,「ありのまま」でよいでしょう。おしっこもうんちも,どこでしてもよいのです。それでも,成長した後は,おしっこをしたくなったらトイレに行くことを学習します。そして,それが自然になっていきますよね。最初,トイレットトレーニングの時には頑張ってトイレに行くことを学習していくのですが,次第に頑張らなくても,力を抜いてトイレにいけるようになるのです。そして,その成長した状態も,よりその年齢に適した「ありのまま」なのです。
学生さんたちに言いました。
今の皆さんがそのままでい続けることを,私は良いと思っていません。皆さんは,学習して沢山の訓練を重ねて,よりよく自分を表現したり,皆さん自身の力をしっかりと発揮できるようになると思います。そのために学習しているのですよね。今の皆さんよりも,もっともっと素敵な独自性や創造性を発揮できるようになることを期待しています,と。
その様に考えると,「ありのまま」とは,しっかりと知識や技術,つまり何かをするときの型をちゃんと身につけていくことから始まります。そして,その型を十分に自分のものとして行った後に,少しずつ「自分らしさ」がにじみ出てくるぐらいになるとき,力が抜けて,本当に自分のものとなっていくのだと思います。
そこで,焦らずに考えておきたいのは,「ありのまま」は,現状を認めるということでもあるということです。「今はまだこれができない」ということもあります。その「ありのまま」を否定せずに認めるということも大切です。
今が良いとか悪いとか思うかどうかは別に,まずは今を認めることからスタートします。そして,目標に向かって具体的な行動を起こしていくしかないのです。
「あなたはそのままでいいんですよ」「ありのままのあなたが素敵ですよ」といった言葉は,「十分によく頑張っていますよ。まずは,今の状態にくつろいでよいのですよ。そして,少しずつまたできるようになったら先に進みましょう」ということを伝えたいときに,使用されるのだろうと思います。
「自分らしさ」
ここで,もう一つのキーワード,「自分らしさ」という言葉も出てきました。
大学では,支援的に話を聴く練習をしてもらっているのですが,そこでは自分の話の聞き方のクセがたくさん見つかります。そして,基本的な傾聴の態度を少しずつ体験してもらい,自分のものにしてもらっていきます。クセは,どうやっても完全に消えることがありません。
ただ,クセをそのままにして,「自分らしさ」と開き直る前に,やはりとことん自分のクセを見つめ,改善できるところは改善し,傾聴がうまい人に近づいていくしかないのです。
上手い人のまねをしていくことでよいのです。自分が認めるうまい人,そのものにはなれませんが,近づくことはあるでしょう。もしかすると,その人も得手不得手があるのでしょうから,自分がその人に優る部分も持てるようになるかもしれません。
その様な取り組みを積み重ねていく中で,上にも書きましたが,より高い自己実現に至る「自分らしさ」が醸し出されるのでしょう。
自分を追い詰めず,今の自分を認め,そして,出来ることを追い求めていきたいですね。
心理カウンセリングに来られる方は,今の状況から一歩ずつ,変化を促していく素敵な力を発揮されます。
私たち,一人一人の道は前に開かれているのだと思います。その道をどこまで歩いていけるのか,それが楽しみですね。
コロナ対策を行っている心理相談室 玉井心理研究室
玉井心理研究室では,認知行動療法やイメージワークを用いて,トラウマから精神疾患,対人関係など広く心理療法を提供しております。
また,個人のみならず,組織における人事・メンタルヘルスコンサルタントとしてもお手伝いをしております。