心理雑感

言い聞かせ方の工夫 トラブル対応

『思春期・青年期 トラブル対応ワークブック』

 小栗正幸さんと特別支援教育ネットが著した書籍が,金剛出版から出ています。

 叱責でも言うことを聞いてくれない,ひたすらに傾聴してもすぐには何ともならない,そんなトラブルが起こったときに,どのように対応していくのか,法務教官として長く勤めてこられた著者と共に,学び合いを重ねてきた人たちの工夫をちりばめたものになっています。

 私の心理実践とも通じるところがあるなぁと思いました。
 心理療法という私の実践と,この取り組みは必ずしも一致しないと思えるので,なんでだろうと思って振り返ると,それは私の実践が激しい感情に振り回されている人たちが自らを取り戻すために取り組みを始めようとする場面に多く立ち会ってきたからなんだろうな,と思い至りました。

 しかし,とてもうまく整理されていて,参考になります。

的外し と 的外れ

 有益な技法の一つに,「的外し」が述べられています。

 「死にたい」と訴えている人に,「そんなに困っていることを私に話してくれてありがとう」と応えるのです。

 更に,「この話は他の誰かにも相談していますか」と尋ね,Yesなら「よかった」と広げていき,Noなら「ありがとう」と受け止めていくように,肯定的な言葉を大切にしていきます。

 ネガティブなインパクトのある言葉を,どのように的を外して対話ができるようにしていくのか,という実践に溢れています。

 的外れ,これは失敗ですね。相手とかみ合わなかったということです。

きっかけと原因

 困っている人,悩むことがちゃんとできている人は,きっかけと原因に繋がりがある。

 困っていない人,悩めていない人は,きっかけと原因に繋がりが見つけにくい。
 そういえば,分かりにくい神経症も,原因は本人が予想もつかない過去と繋がっていることが多く,多くのクライエントさんが相談に訪れるきっかけがなぜそれほど自分を苦しくしたのか分からない,と指摘されてもいますね。

 仲良し課題:みんなとは必ずしもうまくいくわけではない,ということが分かっているだろうか

 勝ち負け課題:本当の遊びの楽しさは,勝つかもしれないし負けるかもしれない,そんなワクワク感でもあるのだということを分かっているだろうか

 恋愛課題:男性と女性は,まず人間関係があり,それが恋愛に進み,性的な領域にも入っていくという段階を踏むということを分かっているだろうか

 とてもコンパクトに,分かりやすくまとめられています。

言い聞かせ方の工夫

 ここでは,少しだけ言い聞かせ方の工夫を紹介します。

 否定的な言葉への対応:「あいつをぶっ殺してやる」←「また,心にもないことを」

 理解する気のない人への対応:「そんなのしらん」←「あなたもよくわかっているように」と一言伝えてから助言する

 興奮しやすい人への対応:爆発してしまった←「みんなはあなたを短気というけど,結構ガマンをしていると思うんだけど,違うかな。(Yesの反応を待って)やっぱり,あなたは我慢できる人。今まで暴れてしまっていた時に,ガマンできたときには,私にこっそりガマンしたって教えて」

 自分本位な人への対応:勝手な態度を取り続けていることに対して←「あなたは人のことを察するのが得意だと思います。そのセンスがあるから,話し合ってみましょう」

 その主張は間違っているということを伝えたほうが良い人への対応:「そこまではっきり間違っていることを,みんなの前で,大きな声で堂々と言えるのはたいしたものだ」

 的外しに載ってこない人への対応:「あなたもいよいよ思春期だね,若いときにはそういうことがあったよ」「またまた御謙遜を」

問題の指摘

 暴力やいじめといった問題に対して,六法全書をこぴーして,その行為は問題だ,理由はどうであれ,ということを明確にする,という方法も面白かったです。

 私も,働く職場におけるハラスメントの支援に入ることがありますが,法律違反かどうか,というわかりやすい問題への線引きが思い至ります。実際には,裁判所は問題があったかどうか,加害者と被害者の訴えのどちらが正しいのかを示しているのではなく,どちらがより説得力のある主張ができたのか,ということを争う場所ですから,何が真実なのかは闇の中であったり,羅生門の世界かもしれませんけどね。

 犯罪を犯すことに対する不安,これはとても大切ですね。
 それを利用しろ,と本書は説きます。
 いいですね。

 ネガティブに感じる感情をなくすのではなく,その感情が自分を守ってくれているという視点で見直してみると,私の近刊,「7つの感情」とも繋がります。

 少し話は広がりますが,「7つの感情」も好評増刷中です。
 是非,手に取ってみてください。

コロナ対策を行っている心理相談室 玉井心理研究室

 玉井心理研究室では,認知行動療法イメージワークを用いて,トラウマから精神疾患,対人関係など広く心理療法を提供しております
 また,個人のみならず,組織における人事・メンタルヘルスコンサルタントとしてもお手伝いをしております。

 コロナ後に拡がったオンラインによる相談ですが,今後も継続する予定です。