『戦争は女の顔をしていない』
ベラルーシの作家,ジャーナリストのスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチによる本のタイトルです。
第二次世界大戦の独ソ戦に従軍したロシアの女性たちにインタビューを行った記録であり,証言文学とも言われています。
女性が戦争に行った体験,そして帰ってきて受けた様々な体験が語られています。
日本では,漫画にもなっていますね。
私も,じっくりは読み込めていないのですが,いろいろと紹介されているもののご縁で手に取り,幾つか浮かんでいることを書いておきたいと思います。
体験・記憶・自己
人が体験したこと,これは事実をなかったことにできないように,体験という事実として私たちに影響を与えます。それは,影響が殆どない小さいものから,人生を変えるほどのものまであるでしょう。
例えば,昨日昼ご飯に食べたアンパン,それは私の人生を大きく変えるとは思いません。これは,殆ど影響がないものです。
ただ,私が飢えていて,そこでアンパン一つがある人から手渡された。そのアンパンは,そしてある人は私にとって人生を大きく変える可能性があります。
体験は,しばしば記憶されます。記憶というものは,随分といい加減なところもあり,時間と共に編集されていくということは知られていることです。私たちは,その編集された記憶に影響を受けます。
そして,私たちは積み上げられた記憶をもとに,自分はこんな人だ,という自己をつかみ取っていきます。そして,その自己は時とともに変化していきます。
臨界期
一方,時間と共に変化せずに固定されてしまうものもあるとも考えられます。
臨界期,という概念もそれを示します。臨界期とは,「人間の脳には学習するのに適切な時期があり,その時期を過ぎると学習が非常に困難になる」ということです。つまり,柔軟な変化が厳しくなるのです。
『戦争は女の顔をしていない』でも,15歳で戦争に行った女性の体調不良に対して,医師が,身体ができる前に戦争という強い負の体験をしすぎた影響が身体に残ってしまった,と述べたと報告しています。
このことは,トラウマの改善に関心がある人にとっては,注目すべき点だと思います。
この報告では,過去の強い体験で,私たちに刻印されるように刻まれたものは,変わらないということが想像されるからです。
ただ,それはまだ検討の余地があるのかもしれません。
何が可能なのか,どの形であれば可能となるのか,どこは変えられないのか,その検討は繊細で忍耐がいることだと思います。
しばしば,乳児期の身体感覚の時代に体験したことにさえも,つまり記憶がない時のことに対して,一定のアプローチが可能だと思えることもあります。
そして,大切なことはその後の習慣づけをどれだけ徹底できるか,ということでもあります。
インナーチャイルド
私の研究テーマの一つ,インナーチャイルドもこの話と重なるところが多いのです。
感覚的な記憶すらも,その記憶に対する意味付けが変わることで,私たちに与える影響が大きく変わります。変わらない部分は,変わらなくても大丈夫なように成形するのです。
苦しみが大きいほどに,その取り組みへのモチベーションが高いとも言えます。
それ故に,到達するところもより深く,不可能とされた領域まで進むのでしょう。
苦しみが小さくても,気軽に自分のケアができる,苦しみに突き動かされるのではなく,希望や期待に向かって進められる形で進められることを目指したいですね。
研究を進めることで,それを示していけるような道標を立てたいと思っています。
玉井心理研究室では、心理療法・心理カウンセリングの提供をしています。また、個人のみならず、組織や会社団体などにおける心理支援も行っております。
現在は、Zoomやスカイプ、電話による相談も強化しております。