Self Analysis by Karen Horney
アメリカで活躍した女性の精神分析家,カレン・ホーナイ氏著書,『自己分析』です。
ホーナイ氏は,この本を通して「自己分析は可能か」ということについて述べています。
またこの本は,精神分析の進め方について,体系的に分かりやすく説明しており,精神分析系の本ではなかなか珍しいとも言えます。
そして,あくまでも一般の人に向けた本として,難解な用語もほとんどありません。
分析は,大きくは3つのステップで進むとされます。まずは,自分の神経症的傾向を認めていくことから始まり,次にはその起源を辿っていきます,最後にそれがいかに自分の在り方全体に影響しているのか,という理解を拡げていくことを通して,行動の変容を促していくとされています。
名著に出会うと,本を読みながら自分の内面がぐっぐっと動いていくのを感じます。しばしば,著者との対話が始まるような気もするものですが,この本を読んでいるときには,自分がまるで分析の過程を辿るかのような体験で,お腹が痛くなりました。
分析を行う前提として,「無意識的原因はパーソナリティ全体を故障させるほどの影響力を持っている」(同書p151)を快く信じることから始まる。そして,その分析が表面的にならないように,知識を使うのではなく,「真我(real self)こそ精神生活の最も活動的な中心部であるし,またそうでなくてはならない。精神分析で働きかけるのはこの精神的中心部に対してである。」(p303)として,そのエネルギーに満ちた心の中心の力を取りもどす取り組みだといいます。
まさに,イギリスの精神分析家で小児科医であったWinnicottが指摘したTrue selfに働きかけるのであり,健康なインナーチャイルドが生き生きと動いている状態に至ることと同じです。
神経症傾向の分類
ホーナイ氏は,その著書の中であくまでも仮説としてですが,神経症的傾向の分類を示しています。
・愛情と承認への神経症的要求:他人中心主義で,裏面として人に対する自分の敵意を恐れる。
・自分の人生を引き受けてくれる相手が欲しいという欲求:愛を過大評価する。
・生活領域を制限しようとする傾向:欲がなく,些細なことに満足し,願望を抑制する。
・権力への欲求:人を支配する。
・論理的推理的に割り切ることにより自他を制御する欲求:割り切り,先見の明を持つことを誇る。
・意志力の全能を信じる欲求:意志の魔力を信じ,不屈の精神を持とうとする。
・人を利用し,人に勝つためには手段を択ばない欲求:人に利用されるのを恐れる。
・社会的に認められ,名声を博したいとの欲求:いかに人に受け入れられ,地位を高めるか。
・自己を賞賛されたい欲求:あるがままの自分ではなく,ありたい理想的な自分を作る。
・個人的業績への野心:能力や人柄ではなく,行動で人に勝ろうとする。
・自律と独立の欲求:独立独歩で,人の助けを不要とする。
・完全で非の打ちどころのない状態への欲求:完璧主義。
ホーナイ氏は,これらの傾向は問題でもなく,人間的価値の喪失でもないとしています。
私たちは,環境の中で生活しており,性格も持っています。それのバランスで,自分の内なる力が十分に発揮できていればよいと言います。
セラピストとクライエントの関係
「直接自己分析と関係はないが,これと関連して私が強調しておきたいことがある。それはもし分析者が患者に対して権威的態度を取らず,かつこの仕事は分析者と患者が同じ目標に向かって積極的に働くひとつの共同作業であることを始めからはっきりさせておくならば,患者は自分の能力を大いに成長させ得るだろうということである。」(p314)
上の文章を読んで,これって認知行動療法におけるセラピストとクライエントの関係,協働的実証主義のことではないか,と思います。
精神分析を専門とするセラピストたちは,随分と権威的な存在に感じてきました。多分,権威的な人もいるのが実情でしょうし,それをうまく治療に生かす人もいるのでしょう。私の感じ方という無意識の影響を受けているのかもしれませんね。この本からすると…。
翻訳は,1961年で霜田静志・国分康孝となっており,訳者はこの本は,専門家にとっても,自分のことを見つめるための人にとっても,心理療法を受けている人にとっても役立つであろうと述べています。
まさに,同感です。
分析を行うということは,「自己変革に取り組む」という意思を持って取り組む本当に実りのある作業だということが,本当に沁みてきます。そして,その結果は,単なる知的な作業ではなく,自分の行動も変化させていく,ということにも繋がっているのです。
とても大きく考えると,心理療法には諸派様々であり,アプローチも異なります。それでも,同じ人に対して行っているものですから,その目的が同じ場合には,深く理解していくと重なる部分が多いのは必然でしょう。
人に対する現実的な認知行動療法と,ホーナイ氏の提唱した精神分析の類似性を強く感じました。
実際に,問題解決から始まって,自分の状態も変化していき,自分のことをより深く理解していきたいから,相談を継続していきたい,という方もおられます。
玉井心理研究室では、心理療法・心理カウンセリングの提供をしています。また、個人のみならず、組織や会社団体などにおける心理支援も行っております。
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