年末年始
皆さんは,正月の時間をどのようにお過ごしでしょうか。
私の今年の正月は,本の校正作業と博士論文の口頭試問の準備以外は,ゆっくりしていました。
スマホで子どもを巻き込んでゲームにはまってしまい,時間を贅沢に?貧困に?費やしてもいました。
レベルを上げるだけの単純なゲームだったので,知的な刺激が欲しくなり,NHKの世界を読む,みたいなものにほっとしてもいました。
感謝
ふらっと,妻と買い物に行くこともありましたが「欲しいもの(おせんべいのようなささやかなものとお米でしたが)が買えるお金があり,お店に行けばそれらがあるって幸せだねぇ」と話していました。
それらが将来にわたって継続されるという保証はないのですから。
今に感謝しつつ,足ることを知り,次世代によいものを残せるように尽力したいと思います。
「心理療法家がみた日本のこころ」(河合俊雄著,ミネルヴァ書房)
この本を読んでいました。副題は「いま,『こころの古層』を探る」となっています。
著者の河合俊雄氏は日本を代表する心理学者であった河合隼雄先生のご子息であり,京都大学の教授をしている方ですね。
精神分裂病→境界例→解離性障害→発達障害
という時代と共に注目されるこころの病気の変化について,そしてすでに発達障害も一時期よりも下火になりつつあり,より広汎性のものとして語られつつあるということは私も同意見でした。
西洋と東洋の時間の流れ,文化の違いについても触れており,スピリチュアルなことに対する意識の違い,合理性を追求しようとする態度と目に見えないものも大切にする(例えばご先祖さんとか)態度の違いについても触れており,首肯するところも多かったですね。
私の考えでも,心理療法で扱っている心は目に見えたり論理で説明しきれるものが全てではないのは明らかです。
人が苦しいときに心理療法を求めることの1つには,現実社会から離れる心という広く深い領域にも自らが繋がっていることを感じることで,それが現実の苦しみからのクッションとしてはたらくようになり,心のバランスを維持する助けになるのだと思います。
実際には,苦しみが和らいだ時には,その取り組みが少なくなるということも仕方がありません。
河合氏の本でも,平安末期に生きた九条兼実の日記『玉葉』でも,苦しいときには夢についても言及が多かったが,落ち着くとその言及が減っていったことが示されてもいます。
境界線とアリストテレス論理
河合氏の本を読んでいて,アリストテレス論理が分かりやすく紹介されていましたので,少し要約しておきましょう。
近代の科学と現実を支配する論理は,
➀同一律:「AとはAである」:「同じものは同じ」(中沢新一による意訳)
②矛盾律:「Aは非Aではない」:「肯定と否定は両立しない」(同,中島による)
③排中律:「AはBか非Bかのいずれかである」:「事物は分離できる」(同)
となります。
詳しく知らなくても,まぁ何となくわかるなぁ,でよいのです。
心理療法でも,最近は,AはAだ,という直接的な分かりやすさが求められている傾向は強いかもしれません。一方,矛盾を扱いますし,否定と肯定が両立するのは明らかです。更には,分離できずに何となく繋がっているような繋がっていないような,そのような曖昧さも多く語られることが増えており,「私は私(と昔は言っていたが,そうは言えない)」「私は何がしたいのかわからない」という語りからも,分離できない感覚を持つ人も多いようです。
河合氏は,分離できない,ということと発達的傾向を繋げて論じている部分もありました。
ただ,その発達的傾向とは,厳密に言うところの発達障害とは異なり,自分との関係,他者との関係のあり方が変化してきている,ということだと思われます。そのことは,玉井は従来,「境界線」という概念で色々と物事を整理してきましたが,それとも繋がると思いました。
河合氏は,「境界線」という概念については言及がなかったものの,幾つかの論説はその概念で読み解くことができるように思います。
この境界線という概念は,以前,このブログでも臨床的な視点として複数紹介しています。よろしければ,そちらをご覧ください(その基礎となるページへはここをクリック)。
「私は私」ということを明確にする,「人は人」ということをはっきりさせることでもある。
それは,自他の線引きをするということでもありますが,自分と異なる他者を尊重する,という態度に繋がると考えています。
一体化する中では,自他の尊重が両立しないことが多いのですから。
その様に考えると,この境界線という概念も,自他の葛藤という苦しみを解決するために発見されたのかもしれませんね。
河合氏の論では,「私は私」という意識が弱まっている,ということを指摘したかったのだと考えられます。その自覚,「意識」することの弱さということとも繋がるのかもしれません。
意識は,人類の偉大な発明の1つだと思いますが,無意識に委ねる,ということとも違うようで,それはまた検討してみたいところではあります。
最近,改めて私の臨床の中で「催眠」が重要な働きをすることが多くなっており,それとの繋がりでも興味深いです。
他にも,いろいろと考えは広がったのですが,またの機会としたいと思います。
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ネガティブに感じやすい7つの感情を理解する,そしてうまく付き合う,そんなことを丁寧に紐解いて解説したものです。また,ご案内しますね。
皆さんと,本を通していろいろと考えて頂き,様々なコメントを頂ければ嬉しいです。
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玉井心理研究室では、心理療法・心理カウンセリングの提供をしています。また、個人のみならず、組織や会社団体などにおける心理支援も行っております。
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