スティーブン・ピンカー
アメリカの心理学者,スティーブン・ピンカーは,ハーバード大学心理学教授の著書,『人はどこまで合理的か』(Rationality: What it is, Why it seems scarce, Why it matters)を読んでいて,改めてベイズ推定って大切だなぁと思い,すごくさらっとだけ書いておきます。
統計の詳しい話を知りたい人は,「ベイズ推定」と検索すれば沢山出てきます。
ここでは,そのさわりだけ。
ベイズ推定
私たちは,日々の中で「これはこの程度の確率で起こるよな」と思っているものがありますよね。
臨床心理に寄せて考えると,「私が不安になりやすい頻度」「自分のことを大切だと感じられる可能性」などもそうでしょう。
そして,カウンセリングを受けていく中で,それらの確率が変化していくのです。
不安になりやすくても,対処がうまくなることで,不思議と頻度が減くということがあります。つまり,確率が変化しているのです。
自分のことを嫌いだと思っていても,そんな自分のことを「慈しむ」という感覚を少し体験できるようになってきた,という話も,その感じ方の確率が変化してきていると言えるでしょう。
なんで,確率の変化なんてことを言っているかというと,ベイズ推定は,
新しい事実や,新しい証拠(つまり体験)を見つけたときに,どの程度それまで持っていた確率(つまり思い込み)を修正するか
ということを示す法則なのです。
これは,牧師だったトーマス・ベイズ(1701-1761)による「ある仮説に対する信頼の度合いは,確率として定量化できる」という考えによるのです。
式があるのですが,できるだけ印象として掴めるように書いてみましょう。
ある仮説の確率,つまりその仮説が正しいと言える信頼度のことを,「事前確率」と言います。
つまり,その確率がどの程度正しいと思っているのか,ということですからその通りですよね。
そして,幾つかの証拠を確認してみることで,実際のその確率はどのように変化するのか,その信頼度を「事後確率」と呼びます。ベイズ推定では,この「事後確率」を求めていくのです。
そして,実際に観察された結果がありますよね。それは,仮説がどうであれ,そのような事象が一般的にどれくらい普通にみられるのか,ということです。
少し複雑に言うと,その観察の結果には,仮説が正しいときに得られる結果の確率と,仮説が間違っているときに得られる結果の確率を足したもの,つまりどっちにしてもそれが観察されたんだ,という確率なのですが,それを「周辺確率」と呼びます。
そしてもう一つ含まれて来るのが,「尤度」と呼ばれるものです。それは,「仮説が正しいとすれば,そのようなデータが得られる可能性はどの程度あるのか」ということになります。
そして,ベイズの法則は,以下のようになります。
事後確率 = 事前確率 × 尤度 ÷ 周辺確率
ピンカー先生は,それを以下のように文章にしています(上, p.248)。
証拠を見たあとの仮説に対する信頼度(つまり事後確率)は,その仮説に対する事前の信頼度(事前確率)に,仮説が真である場合にその証拠が得られる可能性(尤度)をかけ,それを証拠が全体の中でどの程度一般的か(周辺確率)で割ったもの
いかがでしょうか。
そう言われても…と思う人も多いと思います。
思い込みから離れ,冷静に検討してみる練習をしよう
それでも,確率は変化するものだ,ということを知り,様々な情報に対する意識を高めることは大切だと思います。
なぜならば,現在は多くの情報を活用することができる環境になっています。
実際に,全てではありませんが多くの国も人口やその他さまざまな情報を発信しています。
かつては,そのような情報は国家秘密だったのです。
一方,インターネットやテレビ,新聞などで取り上げられるニュースは,何か「特別な問題が起こった」「人の目を引くであろう出来事があった」というものであり,それらは統計的に本当にわずかなことかもしれませんが,世論に影響を与えていますが,統計的には精度は低いものです。
もちろん,統計が全てではなく,人の間の信頼,公平,勇気などと注目に値することを取り上げることが大切だということも分かっておくことも大切です。
それでも,冷静に物事を判断するときに,「その出来事はどれぐらい社会の中で一般的なことだろう」「取り上げられている事柄がある一方,取り上げられないものにはどのようなものがあるのだろう」といった視点を持つことはとても大切です。
面白い情報が載っているサイトもあります。
ニュースサイトのみならず,このような情報に意識的にアクセスしてみる。
何かのニュースを見た際に,その取り上げられた出来事についての裏付けのデータを探してみる,なども面白いことだと思いますよ。
実は,このような取り組みは心理学の領域のみならず,臨床心理学の領域においてもとても大切な視点だと思います。心理カウンセリングは,データで進むものではありませんが,データを大切にする「理性」をよりどころにする部分も大いにあるのですから。
その理性とは,頭が固いのではなく,楽しく柔らかく,事実を探ってみよう,というものでもあるのです。
コロナ対策を行っている心理相談室 玉井心理研究室
玉井心理研究室では、心理療法・心理カウンセリングの提供をしています。また、個人のみならず、組織や会社団体などにおける心理支援も行っております。
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