カウンセリングとサイコセラピー(心理療法)
カウンセリングと心理療法って,何が違うの?と聞かれることがあります。
幾つかの形で説明ができると思います。
私が先日まで理事をしていた心理支援のNPOでは,あくまでも「傾聴」を行って心理的な支援を行い,孤立する人を防ごう,という取り組みをしていました。
そこでは,相談に来た人(クライエントさんと呼びます)の悩みに耳を傾けながらも,その方の能力や力に着目して,それをしっかり確認し合い,共有してその人の自助の力を取りもどす取り組みとなることが多いと感じていました。
言い換えると,問題を見るのではなく,その人のプラスの側面を活性化させていこう,という取り組みでもあります。
このような取り組みは,実際には様々な側面がありますが,カウンセリングと言ってよいと思います。
そして,その支援の提供者をカウンセラーと呼ぶのですね。
一方,私が医療機関の中で行っていた,または医師と連携して心理支援を行う際には,クライエントさんが抱える問題に入り込み,その苦しみの中の体験を一緒に整理し,問題を解決していく,時にそれは精神疾患の治療に携わるという側面も持ちます。
かつて,私も自らを治療者だと認識していました。
言い換えると,問題を見つめ,その苦しみの火中の栗を拾っていく作業であり,マイナスをプラスにしていこうとする取り組みでもあります。
これは,心理療法,医療の中では精神療法と呼ばれる取り組みとなるでしょう。
そして,その支援の提供者をセラピスト,サイコセラピストなどと呼ぶのですね。
一例として,アメリカの現状から考える
私が,お世話になってきた先生たちの多くは,アメリカで心理臨床に携わってきておられました。
先生方がおっしゃっていたのは,アメリカは,州ごとに臨床心理資格が異なるものの,心理療法を実践できるのは博士課程を出た臨床心理学者だけ,というルールが基本だということです。
日本では,医療行為は医師のみが行う,という医師法がありますが,これは,医師の実践は人に侵襲的,つまり害を与える可能性もあるが故に,より高い訓練を受けた専門家でないといけない,ということをうたっているのです。
心理療法も,同様の侵襲的な側面があるが故に,同様のレベルでの訓練がなされていなければならない,ということが指摘されているのです。州によってなのかは正確には分かりませんが,心理療法家が薬物処方まで行う,ということもあるようですから。そこで求められる専門性の高さがありますよね。
日本では修士レベル,大学院修士課程修了で,臨床心理士資格取得の受験資格が与えられます。
アメリカでは,修士レベルでは,心理療法の実践は行わず,前述のカウンセリングレベルの支援を行う,というようになっているようで,それはそれで大切な心理支援に携わっているようです。また,家族療法や様々な学会などの支援資格団体が認められており,多少の判断の柔軟性もあるのかもしれません。
私の専門とする,認知行動療法などでは,創始者のA.ベックは当初,「このアプローチを学ぶには,5年ほどの心理支援の実践を積んでおり,しっかりと相手と情緒的な関係を築くことができるという基本を身に着けていてほしい」といったようなことを書いていたなぁという記憶があります。すみません,記憶で書いています( 一一)。
それだけ効果が高いアプローチであるからには,クライエントさんへの侵襲性も高くなる,ということなのですよね。
私がお世話になっていた医師はよく,「悪くすることができる人は,良くすることができるかもしれない…」などと言っていました…( 一一)。
かつて,私のところにこられたクライエントさんで,別の相談室で認知行動療法に取り組んで,状態が悪くなったので改めてちゃんと治療をしたくて…と言っておられる方がいました。
ちょっとした関係作りができないままに,強引に進めておられたようです。優れた専門性は,大雑把に見ると素人さんと同じように見えても,本当に細かいちょっとした取り組みが全く異なるんですよね。
日本では
日本では,カウンセリングと心理療法の違いは,あまり一般的には意識されていないのではないでしょうか。
一般的には,カウンセリングという言葉の方が広く知られていますから,心理支援の専門家たちは,自らを心理カウンセラーと自己紹介することも多いと思います。
随分と昔のことですが,日本における臨床心理の一番大きな学会である日本心理臨床学会の研修会において,「皆さんは,自分をセラピストという自覚を持ってほしい」ということを強く訴えておられた先生がいました。
カウンセラーじゃないよ,セラピスト,つまり心理療法家だよ,というだけの気概を持って訓練を積み,研究に励み,真摯に実践に向かえ,という強い想いを頂いた気がします。
カウンセラーという言葉には,Q1の「カウンセリングって何?」というコラムでも書きましたが,一定の“軽さ”を感じておられたのだと思います。
かつては,私も心理療法家という心理支援技術者だという意識を持ってひたすらに心理臨床に取り組み続けていた時代がありました。
今は,その技術の訓練と学び,研究は昔よりも進めているつもりですし,その当時よりも少しはよりよく支援もできる気がしています。そして,人が私をカウンセラーと呼ぼうが,サイコセラピストと呼ぼうが,気軽に呼べる方でよいですよ,などと力が抜けてきた気もしています。一生懸命やるしかないのですから…。
そんなこんなで,私自身もやはり上のような学術的な研究の成果を自らに課したくて,長く修士卒で臨床心理士として活動してきましたが,博士号を取得しておきたい,という思いを持って研究を続けております。
(口ばっかりにならないように,ちゃんと学びを積み重ねていきたいと思います( 一一))
心理支援は,本当に相手に肚を据えてしっかりと支えきる,と思えるような近い人に対して自分の人生をかけて行うのでないのであれば,専門家の力を借りたほうがよいと思います。
その際には,専門家を自分の取り組みのアドバイザーとして活用すればよいのです。
専門家は,不特定多数の人たちに対して,同じようなレベルの支援を提供できる訓練をしているから,専門家なのですよね。
玉井心理研究室では、心理療法・心理カウンセリングの提供をしています。また、個人のみならず、組織や会社団体などにおける心理支援も行っております。
現在は、Zoomやスカイプ、電話による相談も強化しております。