気持ち悪くなる過呼吸を再考する
今回は,認知行動療法の一技法である,身体感覚暴露について書いてみたいと思います。
初めて取り組む方は,ちょっと顔をしかめられる方も多いのですが,実際に慣れてみると,とても有益なものです。
さて,身体的な感覚は,私たちに色々なことを教えてくれますよね。
意識しないものも多くあるでしょうが,発熱時や怪我等で痛い時,何らかの不調時には,何らかの不具合が生じ居ていることを教えてくれることが多いものです。
今回は,身体感覚が教えてくれているものと,実際に私たちがそれをどのように捉えることがあるのか,そのギャップを見てみたいと思います。具体的には,過呼吸を取り上げてみます。
過呼吸を経験した人は,本当に苦しくて,初めて体験した時には「これで人生が終わるのか」というぐらいの苦しみと恐怖を感じた方も少なくないのではないでしょうか。
確かに,これは恐ろしい体験で,「もう二度と体験したくない」のは当然として,「またなるのではないか」という,恐れを呼び起こす考えから離れられなくなってしまう人も決して少なくないようです。
実は,私も過去に,身体の怪我から過呼吸持ちになった時期があります。
いろいろ心理のことなど詳しいのに,それでもなるんだなぁと,しみじみと思ったものです。
過呼吸の生物学的状態
過呼吸状態の身体的不快感を生物学的に見ると,血中の酸素が多くなり,二酸化炭素が減ることで,血中酸素・二酸化炭素濃度のバランスが普段と違う,つまり異常値となっていることを示しているのです。それが故に,その過呼吸状態への対処として,ビニール袋を口に当てて息をする,つまり,これ以上新しい酸素が体に入ってこないようにしているのです。
どのような時に過呼吸になるのかは,本当に個人差があるようです。ただそれは,意識できたかどうかはさておき,身体的な状態,または何らかの刺激やきっかけ,それらの組み合わせで,体が「危険だ」と判断した時に,酸素をたくさん取り入れようとすることなのです。
過呼吸状態を作ってみる
意図的に過呼吸状態を作り出すこともできます。
思いっきり息を吸ってはいて,大きくスーハ―スーハ―繰り返していきます。本当に思いっきり,大げさなようにですよ。
実はこれは,内感覚暴露といって,パニック障害等の治療にも組み込まれています。
この取り組みは,身体的な過呼吸状態を意図的に作り出し,その不快感を経験しながら,その感覚が必ずしも危険ではないということを,繰り返し体験して,その感覚に慣れてしまおう,というものなのです。
取り組みが進むと,身体感覚と感情の連動がある程度調整でいるようになります。普段,私たちは体調が悪いと気分も悪くなりがちですが,体調が悪くても「今日はちょっと体調が悪いから気をつけないとな」と自動的に気分が引っ張られることに対して調整力がついていくのです。
身体は私たちを守ってくれている
このように「これは安全だ」と分かっているのに「安全ではない」と感じてしまうことは,実はそれほど変なことではありません。
言い換えると,「これは安全だ」と考えているのは脳の表面,新皮質のところで,「安全ではない」と感じて居るところは,大脳辺縁系や扁桃核のある旧皮質という,脳の深いところに起因しています。
よって,頭の表面と深いところの間で,違うメッセージが発生することで,混乱も加速度的に進み,恐慌状態となるのです。
少し,勉強した難し気な話をしてしまいました。分かりにくいところは,スルーして下さって結構です(笑)。
いずれにせよ,このような身体と気持ちの繋がりを少し知ってもらってから,身体感覚暴露に進むのです。
つまり,意識的に過呼吸といった不快感を自ら発生させるという取り組みに乗り出すのです。
それは,「自分が作ったから安全である(らしい)が,過呼吸と同じ(当然ですが)不快感がある」という体験になります。
そのような体験を繰り返すことで,過呼吸という身体感覚が必ずしも危険ではない,ということを知的にも理解し,脳の深いところと表面の間のつながりを作っていくのです。
身体のことは,まだまだ不思議なことも多くあるかもしれませんが,多くの研究が進んでいます。
複数のものさしを持つ
身体感覚のものさしと,知識というものさし,感情のものさし,それらをうまく理解して,その意味するところを理解して,必要に応じて使い分けられる知恵を手に入れたいですね。
簡単ではないかもしれませんが,少し勉強したり,専門家の力も借りて,取組みを深めてみると,思いのほか効果があるものですよ。
玉井心理研究室では、心理療法・心理カウンセリングの提供をしています。また、個人のみならず、組織や会社団体などにおける心理支援も行っております。
現在は、Zoomやスカイプ、電話による相談も強化しております。