読後の感想(続き④)
アマルティア・セン氏は,インドの経済学者でアジア初のノーベル経済学賞受賞者です。
縁があって私のもとにやってきた表記の本,「グローバリゼーションと人間の安全保障」を読み,いくつかの思いが湧きました。
今回は,東洋と西洋,最近の私の勉強の中でも関心のあるテーマについて,少し興味深い記述があったので紹介させていただきます。
アクバル王 東洋の偉人
セン氏は,インドの方だからよりインドの歴史に詳しいのかもしれませんが,私の無知もあるでしょう。
400年前のインドのアクバル王を紹介し,その当時は世界のどこにも誕生していなかった世俗的国家概念の原点を宣言していることを指摘しています。ムガル帝国の君主で,インドでは人気が高い人のようですね。
そのアクバル王は,イスラム教徒であったようですが,それでも
国家は宗教的には中立性を保持すべし
ということを強く訴えた方でもありました。
このような思想は,はるか以前からの寛容性と多元性を重視する思潮の成果でもあり,それを強固な公的な形で示したのがアクバル王だったのです。
インドという多くの民族,宗教が入り乱れる中で,まさに多様性の共存共栄を進めたのです。
まさに,現在に有益な視点を示してくれています。
東洋と西洋 という思い込み
セン氏は,アクバル王などを紹介しつつ,現在の多くの人が持つ西洋に対するイメージ「西洋こそが寛容と多様性を重視する文化を育んできた」,が必ずしも適切ではないということを示していると指摘しているのです。
そして,前述の西洋に対するイメージとは反対の東洋のイメージ,「自由や自立よりは,規律と秩序を強調する」というものを,選択的に”孔子”を取り上げて裏付けている,と指摘しているのです。
思い込みに注意!と教えてくれているのですね。感謝。
つまり,東洋にも自由や寛容さが広くあり,西洋も自制ということを学ぼうとしている,という側面があることを指摘しているのだと思います。
セン氏は,西洋の資本主義,これは自由市場主義による経済格差を広げる事のみに貢献しているようにも見えることを指摘し,資本主義を否定はしないものの,富の再配分という視点を現実的にする,ということを訴えてもいるのです。
西洋の科学技術の発展は,大きく世界を動かしたのは事実だと思います。アクセルを大きく踏んだのです。
一方,東洋にはほどほど,というブレーキを持っている,という見方,これはセン氏が指摘する思い込みの余韻が私の中にまだあるのかとも思います。
実際に日本も,高度成長期にはアクセルを踏みまくり,世界をすべて牛耳るような勢いで動き回りました。
一度,そのような体験を通して反省することで,初めて適切に改めて本来持っているはずのブレーキを利かせられるようになるのかもしれません。日本も,アクセルとブレーキ,両方をうまく使おうとしているのです。
人の心も似たようなところがあります。
ただ,今の中国については,あまり詳しくは書くつもりはありませんが,どうでしょうね。
まだまだ,もっともっとが止まらないでしょう。アクセル踏みまくりです。人でいうと,イケイケ状態です。
その後は,その事実を受け止めるのでしょうか。より現実的に考える傾向も強いので,そのことを正当化する可能性も高いでしょう。そこは,日本人と異なりますね。
それでもやはり 東洋と西洋
心理療法を生業とする者として,東洋,特に日本の心理療法は,内観や森田療法といったものが挙げられます。
それらでは,もちろんその心理的内容についても検討はされていますが,その介入は心理士が積極的に行うというよりも,心理士はその心理的変化が進む枠組みを維持する役割として,そして聴き手として位置づけられるようにも思います。
心が適切に動くように働きかけることを好む西洋と,心が安全に機能する枠組みを確保することを好む日本,という見方もできるでしょうか。
このあたり,いろいろと考えが膨らむのですが,この先はまたの機会にしましょう。
話のまとまりがないままに,乱文となってしまいました。
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