「あいまいな日本の私」
大江健三郎の著書は,今まで2冊しか読んだことがありませんでした。
大江健三郎は,ノーベル賞作家ですから,有名な方ですよね。今は,ノーベル文学賞が取れるかどうか,ということで村上春樹が取り上げられますから,一昔前の人かもしれません。
とてもきれいな文章を書くと思っていましたが,思想的に合わないと感じており,敬遠する作家のひとりでした。
ふと図書館で『あいまいな日本の私』という大江の講演集を読み,改めて大江の思想,その背景や根っこのところに少し触れることができた気がします。
少し,メモのようになりますが,私の感じたことを書いてみたいと思います。
素直な人
大江健三郎は,素直な人なんだと思いました。
何故,あれ程にこの人の思想が近づきがたく感じていたのか,民主主義と言いながら,すごく強権的にすら感じていたのですが,それはたぶん,大江の率直な問いを不快に感じていたのだと思います。
「私は〇〇と思うけど,あなたは何でそうではないの」
彼は決して人に対して強い態度で迫るのような人ではない,少なくとも文章から感じられる彼の人柄はそのように感じます。むしろ,素朴だと言ってもよい,そのような姿勢を維持することに努めているのかとも思われます。
大人が小さい子どもに「なんで〇〇なの?」と問われて,答えられずに恥ずかしくなる,そんな気持ちを抱いていたのかもしれません。
羅川真里茂のマンガ「ましろのおと」の21巻で,映画監督が「生き方の下手な人間の曲だ」と,津軽三味線について話しています。
私からすると大江の生き方は下手だとは思いませんが,本人は上手い下手ではなく,ちゃんと一つ一つのことをしっかりと考えている,それは不器用なまでに時間をかけてしっかりと考える,そのような姿勢を維持しているんだろうな,と思います。
近年は,器用な生き方はそれなりにちゃんと働いて,休みも充実させて,満足するように稼いで,などといったスマートな生き方というのをイメージする人もいるのかもしれません。
ただ,実際にはそのようなスマートな,というのが幻想でしかないのは実際には人は気づいているはずです。
力が抜けた
そんな大江の本や思想に触れ,不快感ではなく,大江の思想と私の思想が同じかどうかは全く分かりませんし,多分随分と違うところがあるんだろうと思いますが,率直に大江の思想に共感できるところが多かった,つまり彼と対話ができるようになったのだな,と自分を感じた次第です。
私も,ますます肩の力が抜けてきたからなのかな,などとも実感しています。
本は,人との対話でもありますよね。
昔,私の祖父に「大江健三郎は好きではない」と言ったときに,「色々な人を理解できるようにならないといけないよ」と言われたのを思い出しました。
あれから,何十年もたって,ようやくそこにもう一歩近づけたのかもしれません。
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