『肚―人間の重心』
カールフリート・デュルクハイムというドイツの哲学者・心理学者であり、戦前戦後の日本に滞在して、東洋と西洋の思想をつなぐ実践を行っていた人がいます。
その人が書いた本が、『肚―人間の重心』です。
ヨーロッパでかなり広く読まれたようです。
日本では、京都大学名誉教授であった故下程勇吉先生が監修して翻訳しておられます。
下程先生も、本当に少しではありますが、ご指導をいただきました。
「肚を作る」ために、しっかりした姿勢、呼吸を身に着け、自我という頭でっかちになってしまう西洋的な思想から離れることを説いています。
実際に、成長する過程において、自我を獲得することは重要なことですが、(自我とは、「私とはこうだ」というようなアイデンティティとでも言いましょうか。ただ、それは固着して結果として私たちを縛り、限界を作ります。)
「肚を作る」ことは、人が成熟する、ということと同じことです。
人として生まれて、しっかりした肚を作っていくことで、様々なストレスに対しても強くなると言います。
私自身は、長く坐禅にご縁を頂いておりますが、まさに同感です。
心の揺れは続きますが、それ自体に囚われにくくなるのですね。
腹いせ「はらゐせ」
その本の中で、「腹いせ」という言葉についても紹介していました。
“腹いせ”とは、“肚”を“癒す”という言葉が語源のようです。
他に調べてみると、「腹を居させる」の意ではないか、というのもありました。
何かにあたってしまう、というような関係ないものに対して八つ当たりをするかのように使われてしまっているようですが(私も同様でしたが…(#^.^#))、そうではなく、怒りなどをうまく紛らわせて晴らすことなのですね。
個性化との繋がり
個性化とは、ユング(Jung)という分析心理学を創始し、無意識を探求した心理学者が人が、人が目指すものとして説いたことです。
この個性化と、肚を作るということは、本当に似ているのではないかと感じています。
個性化では、自らの内で自我をセルフに置き換えていけるようになることを目指す、としています。セルフとは、本当の自然な、かつ人として備わっている力でもあります。
自我という、私たちが頼りにする「自分」という感覚を、セルフに譲る、まさに肚を作っていく作業と同じではないでしょうか。
日本人など東洋人は、この“肚”ということを理解しやすかったのでしょう。
ただ、現代は随分と西洋化が進んでいますから、そのような体験や修練を積んでいる人は少なくなっているかもしれません。
自分を手放して、かつ安定してそこにいられるようになる、そんな取り組みの外観を紹介しましたが、関心がある方は本書に当たられるとよいでしょう。
機会があれば、内容を紹介しますが…。
そのようなワークショップも開いてみたいですね。