様々な心理療法の開発
境界性パーソナリティ障害(以下BPD)に関しては、多くの治療アプローチが研究されてきました。
まず、弁証法的行動療法(DBT)はその代表的なものですね。開発者のM.リネハンは、認知行動療法をベースに、個人精神療法と4つのグループによる学び、更に電話支援と治療チームのコンサルテーションミーティングといったセットで、一定期間の支援を提供していきます。日本では、それから学ぶところは多いのですが、その形を本格的に実施しているところは少ないのです。
また、感情予測と問題解決のためのシステムズトレーニング(Systems Training for Emotional Predictability and Problem Solving:以下STEPPS)は、N.ブラムらが開発したものもあります。
STEPPSでは、BPDで悩む人は激しい感情を統制する能力が不足しているという仮説のもと、BPDではなくて感情強度障害(Emotional intensity disorder)という用語を用いて、強い感情に対応するスキルを身に着けていくグループを提供しています。
このアプローチは、日本ではごく最近になって広がってきているでしょうか。
スキーマ療法も、認知行動療法を土台に開発されていますが、境界性パーソナリティ障害の人たちは、特に幼少期からの愛着の問題も指摘されていますので、スキーマのように過去の経験をうまく取り込む視点は、とても重要ですね。
日本では、この領域への支援に関心の高い心理士たちは結構学んでいるのではないでしょうか。
それらの文献をよく読んでみると、というかそこまで深読みしなくてもですが、それらのアプローチの土台には、認知行動療法がなることが多いようです。
認知行動療法が優れている、というよりもいろいろなアプローチに応用しやすく、もともとが様々な技法の総称的な部分がありますからね。
自分のパターンを理解する
心理療法の簡単な紹介をしてきましたが、医療機関の中では投薬治療も優先されるでしょう。実際に感情の波を少しでもなだめるように、服薬が役立つこともあります。
上で紹介した心理療法の基本は、どれも境界性パーソナリティ障害(BPD)の人が感情が混乱するようになるパターンを見れるようにしていく、という部分は共通しているように感じています。
実際に、私もその視点は重要視していて、すぐにではないけれども、話を伺っていく中でちょっとずつ見えてくるその人のパターンを一緒に確認していく、という作業をとることが多いのです。
BPDの人は、落ち着いているときには差はありますが、自分のことを客観的にみる力を示すこともあるからです。
実際に、その自分の感情的な側面を相談室の中で表現されることもあり、支援者も余裕がなくなることが多いため、経験と覚悟が必要、などといわれるのです。
そして、自分が苦しくなりやすいところについて、理解して、対処方針を確立して、対処法を練習して、日々の中で感情の動きに気が付けるようになり、そこで対処ができるようにしていく、という流れがあるのです。
それと並行して、自分の心の傷を整理していく作業も進めます。
知的な話では分からない、知らない感覚に自分を開いていくために、マインドフルネスや新しい行動を実践することで、新しい感覚になじませていく、ということが役立つ人もいます。
いろいろとすごくざっくりと書いていますが、関心がある人は勉強してみてください。
家族や近親者による理解
境界性パーソナリティ障害(BPD)で苦しむ人の周りにいる人も、大いに振り回されることが多いものです。
数日前のブログで、家族の対応についても書きましたが、家族や身近な人も疲弊してしまう、ということもあり、家族へのサポートが必要になることもあります。
BPDの人は、距離感が近すぎたり、遠すぎたりするのですが、その人が訴える気持ちへの理解を試み、その理解を示すこと、ただ理解はできたとしても、BPDの人の気持ちをすぐに変えてあげたいけれどもそれはできない、というところは維持してよいのです。
人は、様々な感情を持ちますが、自分の感情のお世話をするのは、自分なのですから。BPDの人が、自分の感情を自分で調整するスキルを身に着けるのを見守る、という距離を維持することは大切です。
その距離は、治療が一定のところまで進むまでは、BPDの人にとっては「冷たく寂しい」と感じる距離なんですけれどもね。
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