境界性パーソナリティ障害の人の事例
今日から、境界性パーソナリティ障害について書こうと思いましたが、幾つかの事例を提示しながら、後日、その説明をしていきたいと思います。
境界性パーソナリティ障害については、ボーダー、ボーダーライン、BPDなどと様々な呼ばれ方をしてきました。
今日示す事例は、この障害を抱える人の典型的なパターンについて、過去に整理していたものに少し手を入れたものです。
一般化したものですので、特定の人についてのお話ではありませんが、人によっては「私のことと似ている」と感じる人もいることでしょう。
それは、何とかなることなんですよ!
わかってほしいAさん
Aさんは20代前半の女性です。
何か気に入らないことがあるたびに、暴れたり親に対してののしり続けたり、「死んでやる」「訴えてやる」などといった騒ぎを繰り返してしまいます。
Aさん自身は、「誰もこの私の思いをわかってくれない」という気持ちで、どうしてよいのかわからなくなってしまっています。
一方、親や周囲の人もどのように対応すればよいのかわからず、一生懸命に対応するのですが、全てをAさんの思い通りにさせることも出来ずに、そうするとAさんは落ち着かない状態が続く、というところに挟まれて困惑しています。
Aさんは、10代半ば頃から抑うつ的な気持ちに襲われることが多々あり、そんなときにはどうしようもない衝動に突き動かされるような感覚に囚われてきたようです。
何とかしなきゃいけない、何とかわかってもらおう、そんな思いも背景として持っていたようですが、そんな自覚はなく、結果として行動は親を責めたり、人に向かったり、物を壊したりと騒ぎを起こしてしまっていました。
落ち着いている時はとても知的で、魅力的な女性なのですが、困ったことがあると自分でもどうしようもなくなってしまうようです。
今は医療につながり、カウンセリングもしっかりと受けて、少し落ち着いてきました。
適度な対人距離、適度な感情表現…がわからないBさん
Bさんは、20代の会社員の男性です。
仕事に対する熱意はあるのですが、上司や同僚との関係がこじれることで転職を繰り返しています。
Bさんは、人からは「話せると分かる奴なんだが、すぐにプッツンすることが多いんだよね」という評価を受けているようです。
関係上トラブルが生じていない際には、とてもやさしく知的な面さえ見せてくれる人なのですが、思い通りにいかないこと・問題が生じると全てを否定的・批判的に感じてしまい、過剰なまでの他者攻撃をしてしまったり、他者との距離を徹底的にとることで孤立してしまい、職場にいられなくなり転職、となるのを繰り返してきました。
もともと、人に対して心を開く、ということが難しかったようで、社会人になってからの失敗体験の中で、益々人と適度な距離でうまく付き合う、ということが難しくなってきています。
孤立する自分をどうしようもなく感じつつ、どうしてよいのかわからず、この先仕事もやっていけるかわからない、というように不安も大きく、自己肯定感も大きく下がってしまいました。
長期にわたるカウンセリングの中で、感情への理解と付き合い方、対人関係のバランス、そして自分への信頼を少しずつ取り戻し、思い通りにならないことに直面したときの自分のことも少しずつ観察できるようになって来ました。
最近は、自分の感覚が過去の家族関係から始まっていたこと、そして過去の傷ついた体験への癒しも進むことで、穏やかな時間を楽しめるようにもなってきています。
子育てと共に自分も育てていくCさん
Cさんは30代後半の既婚女性です。
Cさんは最近、育児休暇を終えて仕事を再開しましたが、子育てと仕事の両立が難しく、不安定になっています。
もともと、情緒的に落ち着いた方ではなかったのですが、余裕がなくなり、その状態に拍車がかかってきたようです。
Cさんの夫はCさんのよき理解者でもあり、優しいのですが、Cさんは余裕のなさからか、夫のことを近くに感じにくくなり、いつも寂しい、という感覚にとらわれています。
今までの経験からCさんにとっての他者とは、親しくなったら離れていく、というようなもので、いつも一緒にいる夫、そして自分を頼る子供との関係で、安心してよいのだろうけれども、安心がわからないし、どのように付き合っていければよいのか困惑しています。
夫はCさんについて、人に甘える時にはとことん甘え、それ以上甘えさせてくれないとなると相手を見限ってしまう極端なところがあり、困っていると言っています。
子育ても、子供が落ち着いていればよいけれども、思い通りに泣き止まなかったりぐずったりし続けると、どうしてよいのかわからず不安定になる、というようです。
不安定になったCさんは、時折自暴自棄な考えも出てきてしまうので、子育ても大変に感じます。
ただカウンセリングを通して、そのような感覚は、昔から自分の中にあった激しく不安定になりがちだった側面であることを理解していき、子育てを通して、自分の感覚を育てなおしていくという取り組みを進めていきました。
子供のことを抱きながら、過去の抱きしめてほしかったときに抱いてもらえなかった時代の自分を癒すように感じ、少しずつ極端にならない自分を感じられるようになっていきました。
そして、現実的なストレス場面での対処行動の習得、そして感情の制御のためのセルフ・コントロールの獲得に取り組んでいったのです。
Cさんは、自分の取り組みを、子供が時間をかけて身に着けていくことを、かなりかけ足で身に着けていくような作業だった、というコメントをされました。
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