心理雑感

『人はどこまで合理的か』

スティーブン・ピンカー

 アメリカの心理学者,スティーブン・ピンカーは,ハーバード大学心理学教授,スタンフォード大やマサチューセッツ工科大でも教鞭をとっている,すごい心理学者ですね。

 日本語にも,幾つもの本が翻訳されています。

 そんな中の一つ,『人はどこまで合理的か』(Rationality: What it is, Why it seems scarce, Why it matters)の紹介です。

 何故って,面白かったので。

協力が最大の利益に繋がる

 その本では,合理性ということが科学という中でいかに研究され,人が最大の利益を得られるような選択を出来るような手助けをしてきているのかが示されています。

 「囚人のジレンマ」というような,少し社会学や心理学などをかじっている人などは耳にしたことがあるようなことの説明なども行っています。
 それは,共同で犯罪を行ったとして捕まえた二人に対して,それぞれに司法取引を持ち掛け,どうこたえるか,ということを示しています。社会的には,協力関係を気づくことが最大の利益になるということなのですが,それがいかに成し遂げられないことがあるか,ということを示すことで,協力をすることを進めているとも言えるような課題です。

 統計学の基本的考えも示しながら,いろいろと解説しているので,細かい統計学のところは興味があまりない方はざっと斜め読みして,面白そうなところだけ読んでみる,だけでも結構読みごたえがあります。

合理的な判断がされない理由

 そして,実際には多くの場合には合理的な判断が大切にされずに,

デマ,陰謀論,迷信などがいかに流行しているか,それらがいかに論理的・統計的誤謬に陥っているのかを示し,道徳的優位に立つことがいいことだと考えすぎてしまったり,直感に頼る傾向があるのか,ということなども示している。

 「信じる」ということがいかに揺れているのか,現実と神話(という表現でまとめている)の境界線が集変化してきていることも,大変にわかりやすい。例えば,今は違うけど「自分の信じている宗教が正しいのだから,それを信じない人を征服して強制的に信じさせる」ということが一昔前までは普通だったことなども語りながら,「信じる」ことはいいけれども,そのことで合理性を手放さないように,ということを教えてくれています。人は,信じていることを分析されて解説されていくと,それだけでなんか否定された気持ちになって,批判的な気持ちになって冷静に考えられなくなってしまいますしね。

 統計的だと言いながら,いかにそれが統計的な間違いに陥っているか,という例も枚挙にいとまがない。

 人って,合理的であろうとしながら,直感で目的に向かって進もうとできている人が優れてセンスが良いと感じてしまったりするし,それが既に冷静な判断から離れているんだよ,ということを忘れさせてしまっていることを温かく思い出させてくれます。

 自分の考えに近い方の情報を集めて,自説を強めていくなどのマイサイドバイアスなども,笑っちゃうけど誰もが陥っていることですよね。何か考えるときには,自分の考えとは違う人の視点も必ず取り入れる,というスタンスは大切なのに,結構面倒くさくてしなくなってしまいますよね。

 科学に対する信頼はそれなりに安定してあるものの,大学への信頼は揺らいでおり,左派的モノカルチャーの場と化してしまっている,といったまさにアカデミックな世界に身を置いている方の嘆きも,ユーモラスに語られています。

 話は広がりますが,ベストセラーになっているらしい『京都生まれの和風韓国人が40年間、徹底比較したから書けた!そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。―― 文化・アイドル・政治・経済・歴史・美容の最新グローバル日韓教養書』という本も手に取って読みましたが,韓国と日本の争いも,わかりやすく解説してもらえると素直に受け入れられるところもたくさん見つかります。
 これも,お互いのマイサイドバイアスを和らげるために役立つ本ですね。

 そして,この著者は,合理的であることがいかにお互いを大切にすることに繋がっているのか,ということを温かく伝えてくれています。オープンマインドのススメです。

 「道徳の核は公平性にあるのだから,わたしたちは自分の利己的な損得勘定と他者のそれとの折り合いをつけなければならない。また合理性の核も公平性にあるのだから,わたしたちはそれぞれがもつバイアスのかかった不完全な意見を調和させて,個々人を超える現実の理解へいたらなければならない。その意味では合理性は認知的な徳であるばかりか,道徳的な徳でもある。」(下巻 p.227)

統計は面白い

 心理学の人は,かなり統計を勉強させられます。日本では心理学部は文系科目となっていましたが,イギリスでは心理学は理系科目でした。日本の心理の「非合理」な悩ましい立ち位置を感じるような話です。

 統計は,多くの人が面倒であったり,小難しいと敬遠するところですが,それは統計を単に数字をいじった「統計的に言えること」とその学問の力を感じられず,損なってしまっているからなのですね。
 この本は,そんな統計が苦手に感じながらも,勉強しなくてはならなくて苦痛を感じている人にとって,統計というものを面白く親しみを感じるものにしてくれるかもしれません。

 心理学や社会学の勉強をしている人は,手に取ってみるとよいでしょうね。

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