心理雑感

かまきりの讃歌 続き

 今回は,『かまきりの讃歌』という本について,前回の続きです。

存在することについて

『かまきりの讃歌』(思索社,昭和62年)は,「A Mantis Carol」の翻訳です。
 本の紹介では,「愛と精神の尊厳を謳いあげる原初の心の物語。自然な故郷からはあまりに遠い摩天楼の世界ニューヨークに現われた、正真正銘の、そして最も純粋なブッシュマン、ハンス・ターイボッシュ。かまきりの夢に導かれて明らかにされる、彼の生きた〈生〉の意味は?」と書かれていました。

 以下,本の抜粋も含みますが,関心がある方は,ぜひ実際に手に取って見られるとよいでしょう。

 アフリカで生まれたブッシュマンが,我が身を売られ,そこで縁あって保護されながら自らサーカスで生きた人生の物語です。彼は,本来は自由に生き,自由に移動するはずの人でした。その自由は奪われた環境で生きながらも,自分の存在を決して損なうことなく,かつ踊りを通して深く祈りを続け,その祈りが実際に自らの出自であるアフリカまで届いたのです。
 これを奇跡というか,つまらない話と思うかは自由ですが,人の心の本当に奥深いことを感じさせてくれるものだと心より感じました。

 私たちが,生きている中で,心の奥底にある存在をどのように感じ,その存在とともに生きていこうとするのか,それは生きている実感と,生きていく意味を併せ持ったものだと思います。
 しばしば,私たちのそれは厚い自我というベールで包まれます。
 近年注目されているマインドフルネスなどは,まさにそのベールを突き抜けようとする取り組みでもあるでしょう。
 インナーチャイルドという存在も,それをガイドしてくれるでしょう。

 今回は,本を少しだけ抜粋させてもらうことで,その雰囲気を少しでも感じてもらえればと思います。

『かまきりの讃歌』より

p30 そこには,深い瞑想の姿勢で,さながら寺院の扉の開くのを待つ如く,大きなかまきりがいたのである。…(中略)…それ以降,私はいわばかまきりの保護のもとに旅していることを信じて疑わないようになった。
 →著者が,かまきりに導かれていく様子が少しずつ明らかになっていきます。

p96 「人生の戦場における武勇に対して,我々の集合的時代に蔓延する憎悪や悪意や嫉妬による倒錯と歪曲に対抗して,その内容と構造を防衛する存在と不抜な精神の戦闘における勇敢な行為に対して,さらにまた,いかにまったき存在のための存在への献身と,それ自身の目的の追求がこの地上における生命の真の栄光をもたらし,…(後略)」
 →著者が,文明の中で自らの文明を生き抜いた人への,何かを成し遂げたからではなく,存在し続けたことへの栄誉を称えたい,という言葉。

p108 それは大自然との相互依存と全き信頼の状態で生きることである。

p112 「アフリカの人間は存在する。ヨーロッパ人は所有する」
 →存在の仕方の違いを表現した,南アフリカ生まれの狩猟家の言葉。ヨーロッパ人を「現代文明人」と置き換えてもよいですね。

p120 月は空にあんなに美しく輝いて…かすれて最後には死んでしまうのです。…彼らは月の満ち欠けまでそれ(踊り)によるものと確信しています。
 →自然とともに生き,自然が自らに与える影響を受け入れ,自らが自然に与える影響を信じて生きる

p124 私たちは踊るだけでなく,いつか私たちが死んだ時に,風に吹かれて私たちの最後の足跡を消してくれるであろう砂塵を巻き上げているのを感じるのです。…(略)…そのかなたの日がのぼるのを見わたしながら輝いている太母シリウスも,この飢えを知っています。そしてこの飢えが鎮められるまで,私たちがどれほど遠くまで長い間旅を続けねばならないかを見て,彼女の愛する私たちすべてのために泣き,涙をこぼすのです。…(略)
 →満たされきることのない飢えを知り,それを受け入れる存在による本能的な告知

p152 ある意味でハンス・ターイボッシュは,全宇宙とその中のすべての生けるものが,あらゆる時代に経験する飢えとして,それを踊ることによって,私が言葉でなし得るものよりもはるかに良く,その多くを私のためにまとめておいてくれた。…
 →踊りで言葉にならないものを表現し,それは祈りであり,その祈りがとあるアメリカ人女性に夢を見せ,その夢に誘われてアフリカから著者がやってきた,その共時的現象

p166 彼や彼の種族ほど,長く,絶え間のない,すさまじい不正を蒙った過去を持った者がいるであろうか。もし,人々が信じている仮定が正しいとすれば,彼は憎悪と復讐の心に満たされていなければならない。…ただ優しさと,より多くの愛へ向かう性質が伸びるための空間が残されているだけであった。…
 →種族全体で大いなる被害を受けながら,そして自分の望まない生活を強いられながら,それでも大切なものを見失わなかった魂の輝き

p172 笑われることを天職として受け入れていて,もし,できるだけ多くの楽しみを人々に与えられなかったら,自分の個としての運命を果たせないことになるとでも言わんばかりであった。
 →名誉でもお金でも知名度でもなく,自分の満足のためでもなく,ただ相手を笑わせる,そのことの純粋な喜びを感じることの難しさよ

 一部,抜粋させてもらいました。→のところは,余計なことかもしれませんが,玉井のコメントです。
 ユング派でいうと,セルフに触れた生き方をしていくこと,認知行動療法的にいうと,自分の反応的な感情や欲求を示す自我に囚われずに,自らのクセに振り回されずに生きていくということ,そんな姿勢を身に着けていけるとよいですよね。

 丁寧に,積み重ねて進めば,辿り着くはずです。
 今,大切だと思うものを大切にする,そのような意識で取り組むこともよいでしょう。

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