認知行動療法におけるスキーマ
認知行動療法において,スキーマという概念があります。これは,中核信念とも呼ばれ,人の心の奥深くに刻まれているような自分・人・世の中に対するイメージ(つまり思考)のことです。
認知行動療法では,このイメージも思考として取り扱います。
実際には,身体感覚や様々なものも集まっているように感じるでしょうが,そこはそのように理解してみてください。
このスキーマは,なかなか変化に時間がかかります。
認知行動療法は,基本的に短期療法として形がつくられており,期間は3ヵ月から半年ほどで終了となるのを想定しています。
もし,相談にいらした方のスキーマがとても否定的なものであった場合には,長期的な展望を持った心理療法とすることが必要となる場合も多々あります。
相談にいらした方の力がスキーマの否定的な力に打ち勝てるほど強ければ,完全には肯定的スキーマを育てきれなくても,基本は自分自身で取り組んでもらえることが想定されます。
このスキーマは,なかなかに悩ましいものであり,近年はイメージ書き直し(Imagery Rescripting)といったイメージ技法が注目されるのも,それがためとも言えましょう。
改善を留めるスキーマ
スキーマの修正に向けた取り組みについては,またの機会に書ければとも思いますが,否定的スキーマが活性化することで,抱えている課題が改善されにくくなることが多々あります。
それには,セラピストも相談に来た人も注意することが必要です。
過去に私が翻訳した本で,「わかりやすい認知療法」(二瓶社,ニーナン/ドライデン著,玉井訳)があります。
これは,基本的な認知行動療法の言葉さえ知っていれば,とても分かりやすくお勧めの本です。条件が付いてしまうのが難なのですが…。
この本に,問題が維持する3つのパターンが示されています。少し,私なりに手を加えて解説します。
スキーマの維持:あきらめ
例えば,「私はダメな人間だ」というスキーマを持っている人が,そのスキーマを信じることで,改善に向けた取り組みをあきらめてしまっている状況がこれにあたります。
スキーマは,事実や真実を示しているとは限らないのですが,それは実感を持って人に迫ってきて,変化させられないように感じやすいものです。
まるで,石に刻まれた言葉のように…。
それ故に,努力は無駄なものと感じ,取り組む意欲をそぐのです。
結果として,否定的スキーマを立てながら,遠慮して生きることになります。
つまり,「私はダメな人間だ」という否定的なスキーマを身近に感じ続けるのです。
この「私はダメな人間だ」というスキーマは,小さいころ,「あなたはいつも失敗ばかりだねぇ」と言われ続けた影響かもしれないのです。
大人になったこの人にとってのこの否定的なスキーマは,事実を意味しているのではなく,過去の繰り返された体験から学習してしまったことなのです。
スキーマの回避:ごまかし
スキーマを見ないようにすることで,嫌な気持ちにならないで済むように様々な方略がとられています。
お酒を飲んで気持ちを和らげる,なんていうのはその一例でしょう。
ちょっとしたストレス緩和のために飲むのではなく,問題を直視しないために逃げ続けるためのお酒は,お酒を手放すと「私は必要とされていない」といったような否定的スキーマが活性化し,不快な気分になってしまいます。
お酒も過ぎれば問題行動です。
つまり,何か別のことを過剰に考える・する,自らを特定の強い刺激下に置き続けるといったことも,どっちに転んでもうまくいかない,という状況に自らを追い込むということになってしまいます。
スキーマの補償:詰めが甘い
否定的スキーマが活性化しやすい人が,それを否定し反撃して何とか克服しようとする,という方法で取り組むのですが,最後の一歩でひっくり返される,という状況に陥っていることです。
ある例では,「私には価値がない」といった否定的スキーマを持っている人がいます。その方は,仕事を一生懸命にがんばり続けることで,評価されて「価値がある」と感じる状態を維持しているとします。
その取り組み自体は,その方の選択肢を拡げ,能力を高めているのですから素晴らしいものです。
ただ,その頑張りの裏に,いつも「私には価値がない」という否定的なスキーマの気配が漂い続けているのであれば,その方はゆっくりと“休養する”ということが出来ません。
例えば,本当に心も体も擦り減らすほどに頑張って,その結果上司から「頑張ってくれたんだから,少し休暇を取っていいよ」と言われて休んでいても,気が付くと不安や抑うつ気分が強まり,「私には価値がない」と感じ始めてしまい,仕事もやめてしまってそれまで積み上げたものを0にしてしまう,といったこともその一例でしょう。
私は過去に,スキーマの補償を“賽の河原の石積”と例えていました。
一生懸命積み重ねて,必ず最後は全てぶち壊してしまう(賽の河原の場合にはやられてしまうのですがね),ということです。
スキーマはなくならないのか
スキーマがなくなる,なくならないのか,という疑問を持つ人も多いでしょう。
ちょっと,別の視点でこの質問を考えてみます。
ふとした時に浮かんできた考えが,二度と頭に浮かばないようにすることが出来るだろうか,と考えてみてください。
これは,無理です。
スキーマとして,「私はダメな人間だ」「私は必要とされていない」「私には価値がない」などといった考えを持っていた人が,それとは異なった肯定的なスキーマを自らの内に育てていくことは大切です。
肯定的なスキーマを育てることは,単に「肯定的に考える」のとは異なります。肯定的な考えが肯定的なスキーマとなるためには,自分の中の奥深い実感,自己像と一致していなければなりません。
肯定的スキーマが心の中で大きくなったとしても,その後も意識して肯定的スキーマを楽しみ,喜ぶ時間を持つことは大切です。
これは,終わりのない義務ではなく,喜びに繋がる作業なのです。
否定的なものから離れる作業から始まり,肯定的なものに辿り着き,肯定的なものを楽しむ,という人生にしていくのです。
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